風沙:伊原克利シルクロード同好会事務局長・記
昨年末、書道家である同期の友人から「風沙」という書を頂いた。私の拙文「シルクロード紀行」を読んで「風沙」という文字を思いついたという。
彼は私とは似ても似つかない温厚で篤実な人である。しかし、頂いた書はその人柄からは想像もつかない迫力に溢れたものである。私は幾度となくシルクロードを歩いてきたが、これほどの凄い風沙にはまだお目にかかってはいない。書のもつ表現の力を改めて知らされた。
49歳で初めてシルクロードに足を踏み入れて17年、以来西域に魅せられ続けた。そこには文明から隔絶されたような人達が豊沃とはかけ離れた自然環境の中で生きている。我々旅人に見せる純朴な柔和さと質朴さとは確かに違う、自然と共存する逞しい別の顔を彼らは持っている。そして彼らはその生活に確たる誇りをもつ。豊かさの中で混濁を極める日本と比べどちらが心豊かに充足した生活をしているか、答えは明らかである。
今年8月、私にとって7度目、「シルクロード同好会」では4度目のシルクロードの旅が待っている。会員も各地に増え今回の参加者は25名、平均年齢66歳の15日間となる。
今回は敦煌陽関からアルキン山脈の北麓を走り、広漠たるタクラマカン沙漠にテントを張って、玄奘や
ヘディンも見上げたであろう満天の星の下で仲間と西域に乾杯しよう。そして悠久無辺たるタリムで往古の旅人に想いを馳せるのである。もしかすると、沙漠の風に乗って遠くから、かすかに駱駝の鈴の音が聞こえてくるかもしれない。などと年甲斐もなくそんな夢幻的なロマンに心ときめかせる。
家に飾られた等身大の「風沙」の書を見つめながら、この夏の辺境へ戈壁へと想いをつのらせる冬の日々である。
タクラマカン沙漠に立つ(2005年7月1日)