私の家に母が描いた数点の水墨画がある。これらの絵は父が病気になって自宅療養する身となり、母がその看護に時間を取られるようになる前に描いたものである。
父を見送ったあと、私は母には再び絵筆をとって趣味を楽しんで欲しいと願っていたし、私自身も水墨画を母に教わりたいと思っていた。しかし母はもう絵を描けないといって本やビデオと共に画材一式を私に託した。
ひとり暮らしの母は88歳、隣に住む姉夫婦に見守られ、手助けして貰いながらも自分の身の回りの家事の殆どを自分でこなしている。今でも子ども達が母の家に集まった時には母手作りの茶碗蒸しが食卓を賑わす。雪の少ない今冬、暖かい日には足が衰えないようにと家の前を散歩しているという。
春が来たら母の元へ通って少しでも絵の教えを請いながら、何とか自己流でもよいから描いてみたい。絵心の無い私には先は見えてこないのだけれど・・・。
母と過ごせる日々を大切にしなければと思う昨今の私なのです。