《お墓建立》
父が墓地の権利を確保してあったその場所に、ようやくお墓が建った。
子ども達が協力してお墓を建てたいと母に告げたとき、母は言った。
「父さんは立派な墓はいらない、小さな墓を作ってそこへ入りたいと言っていたんだよ」と。
《生前戒名》
お墓を建立するにあたって母は菩提寺の方丈さんから生前戒名を授けていただいた。
墓石には朱を入れた母の戒名も父の隣に刻されている。
菩提寺の狭い納骨堂で過ごした父とゆかりの人の遺骨は、母と子ども達に見守られ、読経に送られて埋葬された。母と私が連名で浄書した「妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈」「摩訶般若波羅蜜多心経」の写経も、母の希望で一緒にお墓の中に納まった。
母は寒空の中、一心に手を合わせていた。
「父さんよかったね。今度はゆっくり休めるね。わたしもほっとしましたよ」
法要が終わり家路についた後、見計らったかのように雪が降り始めた。